無題 -序-
五百年以上を経て世人は気づくだろう
その時代の誇りであった彼の存在に
やがて突如として偉大な啓示がもたらされ
その同じ世紀の人びとを大いに満足させるだろう
── 《予言詩集 第3章94節》
稀代の予言者とも称されるノストラダムスが晩年を過ごしたこの街には、彼が過ごした家が今でも残されている。
その家の地下で予言詩集第12章が見つかったと言う噂が流れたのは、前世紀も終わりかけたころであった。
そして今──
屋根裏部屋に2人の男。
彼らの目の前には、ラテン語で書かれた1つの文章がランプで照らし出されていた。
『IGNE FACIT DE TERRA CAELUM ET DE CAELO TERRAM』
ある問いかけに答えたとされるその文章の奥に、日の目を見ていないかの予言者の遺稿があるという。
彼らはその噂を聞きつけこの場所に来たのだ。
2人は、黙ったままアイコンタクトで頷きあう。
時間をかけ漆喰を丁寧に剥がし、レンガを外すとそこには、時代を感じさせるかのように黄ばんだ、羊皮紙の束が丁寧に収められていた。
魔法陣のような紋様の書かれた帯で縛られ纏められたそれを手に取り、その帯を破り捨て、内容を確認する。
ライトに薄暗く照らされた、そこには中世フランス語、ラテン語で書かれた4行詩でも、下原稿と言われている6行詩でもなく、改行されることなくひたすら書き綴られた文章だった。
「《黙示録》…では、ないな。確かに、ノストラダムス特有の文体ではあるし、今まで発表されていない内容に間違いないことは確かだ」
「なら、これで間違いないのか」
「詳しくは、ゆっくり調べないと分からないが、な」
2人は頷き合い、はずしたレンガを元に戻し漆喰を改めて塗り固め現状を復元していく。
この時、2人の運命、そして世界にとっての運命も決まった。
もう少し読み進めるべきだったのだ。
そうしているならば、ひょっとするとこの13章は誰にも知られることなく、隠され続けていたのかもしれない。
かの予言者もそれを望んでいた。そして同時にそれが叶わぬことであることも理解していた。
だからこそ、彼は魔術的に封印を行い、そしてその序文にこう記したのだ。
「この書を世に出すことなかれ。我が秘儀を持って封印をなす。封を解きし者に死神をもたらさん。」と。
翌朝、サロンの地元紙に2人の変死体が見つかったことが小さく載った。